「それでいいでしょう」
縫子も他の娘達も気のない顔でその問答をきいた。米は暫く一心に紺花色の裏地を裁っていると思ったらいきなり、
「ねえ、ちょっとどう思って? 千代乃さんまた来るでしょうか」
と云い出した。くるりとその声でてふが振向き、
「縫子さんどう? 昨夜の様子ったら!」
さも堪らなそうに云った。縫子は、やはり火鉢にかぶさったまま、嘲るように口のはたを引下げて笑いながら合点する。
「何なの」
好奇心に満ちたのは米ばかりではなかった。
「千代乃さんがどうかしたの?」
てふが、まち針を打ちながらわざと無雑作に云った。
「昨日千代乃さんの御婚礼があったのよ」
「あらあ」
何故だか一同がとてもおかしそうに吹き出した。
「本当? 本当に昨夜あったの? いやな千代乃さん、私今度会ったらうんと云ってやるわ。こないだ会った時訊いたらすまして来年よ、だなんて――」
「見たの? おてふさん」
「見たわ、ねえ」
てふは、さも二人だけがあれを知ってるのよと合図するように得意で縫子に目交ぜをした。
「とても素敵だったわね」
縫子はまた、大きい瞼がちっと脹れぼったいような眼を瞠《みは》って、唇を
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