た言葉を思い出した。それは、この前伯母が来たとき、桃ちゃんも、そろそろお家にいらっしゃるようにしなくてはね、どうしても近ごろは、ああやっていらっしゃると御縁が遠くなり勝ちですからね、といったことを、自分も賛成の意見として話したのであった。親や娘たちも、このごろは妙なあせりかたをしている。そこに何かいつまでも変らない女のみじめさと、そのみじめさからの飾られた計算があるようで、桃子は悲しかった。
「ね、順助さん、そう思わない? そういうこと、みんな女が、男のひとと本当に同じ感覚で歴史の全体の断面を自分のものと感じるところまでいってないからなのよ。自分ひとりの幸、不幸でだけわかって、何だか時代の不幸というような感覚まで行ってないみたいなんだもの――ちがうかしら……」
「うむ……」
 永い間黙って歩いていて、順助はぽっつりと、
「愛すということを女はどう考えているんだろう」
と云った。
 それは殆ど自分自身に向って訊くような沈んだ調子である。桃子の胸を深い鋭い疼《いた》みに似たものが走った。こんなに近い近い自分たち二人の男と女、そしてまたこんなに遠くもある自分たち二人の男と女。これもこれとして
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