端、けたたましい叫び声をあげて廊下の鸚哥があばれた。
「餌がないのかしら」
ふき子が妹に訊いた。
「百代さん、あなたけさやってくれた?」
百代は聞えないのか返事しなかった。
「よし、僕が見てやる」
篤介が横とびに廊下へ出て行った。
「猫が通ったんだよ」
弾機をひねくりながら悌がもったいぶっていったのが、忽ち、
「何? え、今のなに」
と、機械をすて篤介のところへ立って行った。
「何するんだい、この糸」
「糸じゃないよ」
「糸だい」
「馬の尻尾《しっぽ》だよ」
「ふーむ、本当? どこから持って来たの」
「抜いて来たのさ」
「――嘘いってら! 蹴るよ」
「馬の脚は横へは曲りませんよ。擽《くすぐ》ったがってフッフッフッって笑うよ」
ふき子が伸びをするように胸を反して椅子から立ちながら、
「みんな紅茶のみたくない?」
「賛成!」
忠一が悲痛らしく眉を顰《しか》めて、
「何にしろ、蝦姑《しゃこ》だろうね」
といった。
「全くさ」
大きな声で、廊下から篤介が怒鳴った。
「蝦姑《しゃこ》にするたあ洒落《しゃら》くせえ!」
「でも、本当に、海老なかったのかしら」
小さい声で、思い出した
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