無題(六)
宮本百合子

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 私が見境いなくものを読みたがり出した頃は、山田美妙の作品など顧られない時代になって居た。一つも読んだことはないが、感情の表現を大体音声や言葉づかいの上に誇張して示したらしい。雲中語の評者たちから、散々ひやかされて居るが、同じ明治三十年に新小説に発表した「平八郎」の評 文学生。 市之進がお国の自殺を見たときの詞は、実に修辞の妙を極めて居るから、少し抜いて同好の士に示してやりたい。曰く
「旦、御新造、やれまツ、自、害か、馬ツ、何といふ、いけませんか、療治は、助かりませんかな、やれ、もツ、こんな綺麗な首に、こ、こんな石榴のやうな痍ツ、(中略)仕様ン無いなア、死ぬなんて、まツ、えツ、も、どうしたら、よう、やい、ひよウ、いけないかなア、助からないかなア、ち、畜生だなツ、ほんとうにイツ」悔しいが我々には、ち、畜ツ、ちえツ、もツ、お、及ばなイ
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