なった時にでさえかじりつこうともがく生を芸術にささげて微笑しながら死んだ真面目な高潔な心地――
それを思って欲しい。
芸術は人間の生命以上に価値のある意味のあるものだと云う事を思ってもらいたい。
文学者が尊い芸術を完成したら死ね!
美術家が犯しがたい製作が出来たら生きて居るな!
なんかと云うのではない。
その心地を解してその心持をもって居てもらいたいと思うのだ。
すべてがどんな下ら事[#「ら事」に「(ママ)」の注記]までが渦巻いて心の前をあばれまわって悪い瓦斯の立ち舞う現在に芸術に入って居るものは心の眼を見ひらいて芸術の真の価値を知って真の高潔さを感受しなければなるまいと思う。
今の世の中はあんまり芸術が安っぽくだれにでもつかまれてだれにでもおもちゃにされて居る。
おもちゃにされる芸術
何と云うなさけない言葉だろう。
芸術の尊さと云うものをあんまり多くの人が云ってあんまり多く書きたてた。
そのために人達は耳なれた様にそれについて今は忘れた様になって居ると私は思う。あんまり人なつっこいあんまり八方美人に芸術はなりかかって居る。
犯しがたい威厳のあるツンとした女王の様な態度を芸術はもって居なければならない。オッチョコチョイにそれを大切にする人の群はそのひろい陰に欠点をかくし見っともないところをかくしてはしゃぎ廻って居ると私は思う。
真の芸術を!
私は叫ぶ。
真の芸術を!
芸術に志ざしてる人すべてに向って又私自身に向っても斯う叫ぶ。
真の芸術の厳な暁光におっちょこちょいの人達は驚異の目を見張りやがてはどこへかその姿をかくして仕舞うことを希望し又必ずそうなくてはならない事であると思う。
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底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
1981(昭和56)年12月25日初版
1986(昭和61)年3月20日第5刷
初出:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
1981(昭和56)年12月25日初版
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年3月22日作成
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