無題(十)
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)どこで[#「こで」に「ママ」の注記]ホーホケキョと鶯の声がする。
−−

 三四日梅雨のように降りつづいた雨がひどい地震のあと晴れあがった。
 五時すぎて夕方が迫っているのに 雀がチク チ チチと楽しそうに囀り、まだ濡れて軟かく重い青葉は眼に沁みる程 蒼々として見える。どこで[#「こで」に「ママ」の注記]ホーホケキョと鶯の声がする。遠くの欅の梢や松の梢のあたり 薄すり青っぽい靄がこめている。まだポトリ ポトリ 雨のしずくがトタン屋根にしたたっているが、前の瓦屋根越に見えるよその排気筒はしずかにゆるやかにまわって、蠅が 巻き上げた簾のところで かたまってとびまわっている。柿の花が目にとまった。見るととなりの庭の土の上に いくらかその花が落ちている、梅雨の頃の子供のときを思い出す。水たまり、柿の花が浮んでいる、ところ。



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
終わり
全1ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング