ら死ぬまではなさないと云う様な目や、つめたい空気にみがかれた青白い細いかおを思い出しました。そして今自分の胸によって居る人の命がその目の見る度に段々、短くなって行く様な気がして、
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
ロ「イイエ何と云ったって駄目なんだから、ここに私が自分の命にかけても守って居るんだもの、どんな悪魔だって、エエエ、大丈夫だ、きっとどんなにでもして守らなくてはならない。大丈夫なんだから。だけれども何だか悲しい。ネ、私の可愛い人。どんな事があっても森の女の手から逃れなくてはいけなくてよ」
[#ここで字下げ終わり]
 家のまずしい娘が始て美くしい着物をもらって着る事を忘れた時の様な気持でローズは自分の胸によって居る人の自分の身に似つかない尊い人の様に思われました。日が段々西に落ちて窓のガラスは五色にかがやいて居ます、けれども詩人のねむりはまださめません。「一ツ星を見つけた、運がよくなれー」と半ズボンの小供が叫ぶ頃ようやく目をさました人は、今更の様に自分がよくねて居たのを驚く様に又自分がついウトウトとしはじめてから今までの間ずいぶん長い間、自分をビクともなせないで胸をかして呉れた人の心が段々心にしみて来てたまらない様な声で〔以下欠〕



底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年12月25日初版
   1986(昭和61)年3月20日第5刷
初出:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年12月25日初版
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2009年1月29日作成
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