、見て下さい、とうとう出来ましたよ。私はまア、どんなにうれしいでしょう。私は貴女に見てもらってから町に行って本にする様にたのんで来ましょう。馬でネ、二人で行きましょう」
[#ここで字下げ終わり]
はずんだ声で云ってさし出した手にはあついあつい、書いたものがのって居ました。
ローズは「もうたまらない」と云う様なそわそわしてそして又いつもより一層娘らしい形をして立ったままそれをよみました。そして紙の上を走って居る目は驚とよろこびと一所になってそれはそれは美くしい光がさして居ます。書いたものは厚い厚いものです。中々一日によみきれそうにもありませんでした。所々、紙を重ねてめくって終まで来た時、
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
ロ「マア、なんと云う立派な詩でしょう、早くお出しなさい、私すぐ馬の用意をして服を着かえますよネ」
[#ここで字下げ終わり]
うれしくてたまらないと云った様な様子をしてローズの姿が戸口から消えてから十分立つとかるい色のいい形の乗馬服を着たローズの姿がまた戸口から出ました。
五分たってから真白な馬は二匹頭をそろえてみどりの森の間をくぐって燈の光の多い町に急ぎました。三十分立った時二匹の馬は町のにぎやかな所の本屋に立って居ました。詩人は柔い雅号で出版の手つづきをすませて又二匹の馬は村に向いました。詩人の母や祖母はふるえる様によろこんでこの美くしくて幸多い人の行末をどうぞまっすぐに行く様にと夕のおいのりはいつもより倍も倍も久く時をかけました。その翌日もその翌日も楽しく嬉しく望多い日が経ました。一週間たって若い力のある人々のあつまって居る文壇に一つの可愛い姿をした詩集が顔を出しました。何か変ったものがほしい、何かめずらしいものがほしいと思って居た人々はそのめずらしいお客様を早速手にしました。人々はそのめずらしい旅の様子に驚かされその美くしくてやさしい歌言葉に驚かされました。本の評判は見る見るあがって日々の新聞にはいろいろの人がいろいろな目をもって評して居ました。けれどもどれ一つとしてそのものを悪く云ったものは一つもありませんでした。その筆の達者な美くしい詩を書く人はどんな世なれた人かと思ってその住居を訪ねた人は母にたすけられて出て来た美くしい女の様な目の大きな少年がその作者ときいて驚はますます深められました。世間の人々は美くしい人をなお美く
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