四人隔てて見えているのに、実際油井の握って離さないのは自分の手だという歓びが、みのえを恍惚《うっとり》させた。油井は、髭と瞼が西日に照らされるような顔付で、そっと訊いた。
「くたびれたの」
 みのえは黙っていいえをした。
 ――
「さて――これから油井さん貴方どうなさるの」
 往来へ出て、みのえは急に空気が軽くなったような心持がした。
「わたし、どうせここまで出たついでだから浜町へ廻って行きたいんだけれど……」
 お清は、みのえを見た。
「叔父さんのところへ来るかい」
「いや」
 油井が、みのえの方は見ず、
「じゃ、奥さん行ってらっしゃい、私、みのえさんを家まで送って行きますから」
と云った。
「そうですか、じゃそう願おうかしら」
「丁度いい。来ましたよ、築地両国でいいんでしょう」
 電車へお清を押し上げ、窓から歩道に向って頭を下げた彼女を乗せたままそれが動き出すと、油井はみのえを連れ、ぶらぶら歩き出した。
「ちょっと日比谷でも散歩して行きましょう、ね」
 彼等は公園の池の汀に長い間いた。噴水が風の向のかわるにつれ、かなたに靡《なび》きこなたに動きして美しい眺めであった。低い鉄柵のかな
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