の生活と文化の問題も、この頃は右のような点できわめて複雑なあらわれを示していると思う。たとえば昭和十四年度の日本文学の総決算を一読した人々は、そこに本年度の特徴として、婦人作家の活動という一項があったことに注目されたろうと思う。とにかく明治以来の文学史であまり前例のない数の婦人作家たちが文壇に作品を送りその評価を問うたのであったが、それはただちに日本婦人の文化の能力がこの何年間かに異常に高められて来た結果であるといい得るものだろうか。少くとも日本の今日の文学のありようとの関係でみれば、それらの総決算の筆者たちがみな一様にふれている如く、婦人作家擡頭も決して単純なものではない。現代の文学は、世相の激動につれて非常に動揺し、ある意味では文学としての基準を失い、男の作家たちの多数が、卑俗に政治化したり、非文学的な著述業に堕したり、自身の文学的境地打開のための輾転反側に陥った。文学は一見隆盛であって、しかもその実質は低められもしあるいは亀裂が入り、あるいは一新の前の薄闇におかれている。よかれあしかれ、男の作家のもつ社会性のひろさ、敏感さ、積極性がそういう文学上の混乱を示しているのであるが、婦人
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