婦人が今までたとえば小学校教員でも女の教員は月給が初めから安く、且つ永久に安い、たとえ五円でも安くなければ気が済まないという有様で、各官庁会社に勤めている婦人達もそうでした。あの人がいなければちょっと困るという位置の人でも地位は男より低い。古い古い女の人を見ると、うちの国宝だとか、生字引だとか、女でないものになったような扱いをする。そういうことから、苦しくて罷めてしまうという場合もある。それから家庭における女の人がやはりあまり利巧でも困るが馬鹿でも困るというひどい扱いを受けている。そういうことに対して女の人の十分な声、十分な立場、女が幸福であれば男も幸福であるというそういうことを主張していた佐多稲子さん、平林たい子さんのような人達、このような人達は女というものは男よりも決して劣ったものでなく、劣っているとすれば、今までの永い歴史の中に女のおかれていた社会的な地位、そういうものが女を苦しめ低くし、同時にそれが男をも苦しく低いものとした、だから男と女とは援け合って生活全体をよくして行かねばならないという立場に立っている人達、そういう時代に出た婦人作家達も、歴史的な素質を持っています。こういう人の小説は新しいはっきりした日本の歴史における社会的地位を持っています。
 戦争の間はみんなひどい目に遭いました。誰でもその時楽をした人はありません。それで、今日になって初めて自分達の口を抑えていたものがとれて、なにかというと私どもの手からペンを取上げて牢屋へぶち込んだそういう力はなくなった。今こそ私どもは日本全体が新しい民主的な日本になろうとする喜びの中に全身的に参加して行くという熱情を持っています。婦人参政権は文学という問題と違うけれども、政治は毎日の生活を処理して行くものであります、この頃のどさくさで金を儲けている人間もあるが、しかしわれわれはやはり困っています。そういうことについて現実の生活が教えている以上、一葉が文学と生活を一つものと理解することができなかった歴史に鑑みて、一葉が才能があったかなかったかの問題でなしに、今日私どもは一葉より才能が少いかも知れないが、しかし私ども全体はこのゼネレーションというものに誇りを持っています。今日の世界に生き、今日の日本に生きているという誇りと献身的な情熱を持っています。
 それは、あなた方が今日話を聴きにおいでになるそのお心持の中には
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