交ぜたような濃艷、幽怨趣味にかわり、主として自然の風情だの
[#ここから3字下げ]
天上の善き日におとる日としらず
おんいつはりの第一日を
[#ここで字下げ終わり]
という調子で情懐をうたっている。三十七年の、「君死にたまふこと勿れ」という、戦争へ抗議した有名な長詩で、当時の「愛国詩人」大町桂月と『明星』とが論争したことも、日本の近代文学史の上で記憶されるべき出来ごとである。晶子が短歌の世界と散文の世界とを区別して、歌ではいずれかというと刻々の現実から何歩かあゆみ離れた境地[#「境地」に傍点]とでもいうものをもって制作していることは、『明星』のロマンティシズムの時代的な弱さとしてみられる。ああいう歌をつくる人が、このような議論も書くということに対して瞠られる目。そして、生活はこのようにして、と身近な同感で随筆も読まれるということは、一応は一人の婦人芸術家のゆたかな多面性のようではあるが、文学の現実としてみれば、歌にある情緒の型と随筆評論のうちにある生活的な意志との間の分裂を、ただ多様性とばかり見ることは出来ない。
「たけくらべ」が前期ロマンティシズムのきわまった所産として完
前へ
次へ
全369ページ中93ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング