もいうべき一葉の作品に遠く及ばないというのが定評であると思う。だが「藪の鶯」の新しさそのものが、そこにある思想の本質では明治二十年以前にあった婦人の新しい社会生活への動きが幹で截られたあとに生えた蘖《ひこばえ》にすぎず、しかも蘖《ひこばえ》たる自身の本質について作者は全く無自覚であったということは、「たけくらべ」の作者一葉が、自身のロマンティシズムのうちにふくまれている矛盾について知る力を持っていなかったことといかほど逕庭があるだろう。近代日本の婦人作家の歴史が、このように自ら流れる方向を知らない源から発して、今日に到っているということには、婦人作家たちが経なければならない歴史的運命が、ひととおりならぬものであるということについて十分の暗示をなげていると思われるのである。
三、短い翼
一八九七―一九〇六(明治三十年代)
樋口一葉の亡くなった翌年の明治三十年十二月に編輯され、三十一年一月に発行された『文学界』はそれを最終号として廃刊になった。明治二十六年一月に創刊されて、日本のロマンティシズム運動とともに忘れ難いこの雑誌は、五年間の任務を果し、今やその
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