という、生活的真実を文学の真実として描き出す可能を全然喪いつつあった。書き下し長篇小説の出版を可能にした軍需インフレーションは、そのような経済事情の変調をもたらす戦争によって日本の文学の真実の声を殺戮しはじめていたのであった。人間真実が失われて平然たる長篇小説流行に抗して、作家の内的な真実と作品の世界の統一をとり戻そうとする希望から、短篇小説の意味が再び注意をひきつけたのがこの時期であった。こけおどしのあやつり人形のような人物、筋ばかりの小説に対して、生活の偽りない物語を求める気分は、豊田正子の「綴方教室」だの小川正子の「小島の春」だのへ異常な興味をひきつけた。その観察や表現に偽りのすくないというねうちから、川端康成によって「素人の文学」或は「女子供の文章」の評価が云われたのも、この時代であった。この現象を別の言葉であらわすならば、当時の文学は、遂に一番低いところを流れる自身の水脈をさえ荒廃させてしまって、今は、文学の外を流れるかぼそいせせらぎの音に懐しくも耳を傾けるという事情に立ち到った次第であった。こういう特別な時期に、近代文学の歴史の中ではいつも不遇である婦人作家たちが、いくらか
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