からちりこぼれた時代的な変種の二番咲きとして一方に高山樗牛、与謝野寛などのような当時の権力と方向を合わせた政策的文学批評や慷慨の意気の代表者を生むとともに、他の一方には、そのような俗情に立つ合目的性の文学に反抗するロマンティック思想と、擡頭しつつある自然主義の傾向とのわかちがたく綯《な》い合わされた独自の存在として国木田独歩を生んだのであるが、新詩社のロマンティシズムが、日本の近代文学の成長に寄与した何ものかがあるとすれば、それは鉄幹が意識してふりかざしながら詩壇に登場した日本帝国の支配者たちの口ぶりに合わせた政策的高吟の詩の幾篇かではなくて、
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ひときれの堅きもちひをあかがりの
手にとりもちて歌をしぞ思ふ
皮ころも虎斑のなかにうづまりて
いねて笛ふくましろなる人
乞食等の著すてし野辺の朽ちむしろ
くちめよりさへさくすみれかな
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などという歌にこめられた一味新鮮な近代の生活感覚であったことは、特に注目をひく点であると思われる。一方で『天地玄黄』のような歌を出している鉄幹は、自身のうちからおのずとほとばしったそういう二色の歌の流れの間にある興味ふかい矛盾に、果して心付いていただろうか。
彼は辛酸な少年時代を経た。
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孔子《くじ》のふみ読みてこもれど天雲《あまぐも》の
立たまく欲しく止みかねつも
むなしくて家にあるより己が身し
谷にうちはめ死なん勝れり
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と思いきわまった青年が、二十歳を二つ三つ越したばかりの血気で日清戦争の好戦的な気風にあおられ、師事した森鴎外が、「勲章は時々《じじ》の恐怖に代へたると日々の消化に代へたるとあり」とよんだ芸術境にも反した「荒男神」のロマンティシズムをもって現れながら、境遇の人間的な現実は抑えがたくて、
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野に生ふる草にも物を云はせばや
涙もあらむ歌もあらむ
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と詠う真情の新しい力が、近代文学として本質的な意義をもたらしたという事実は、何と興味ふかいだろう。作者は其を承知しなくとも、今日の目で眺めれば、ロマンティシズムも日清戦後の日本の現実のなかでは貴族的なロセッティの美の世界から歩み出て、当時『六合雑誌』で安部磯雄や片山潜
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