地に出ていた。ブラブラ歩いてそこまで来ると、思いがけず子供等の様子が目に付いたので、傍の木蔭から非常な興味を持って、眺めていた。そして薯のことから、喧嘩からすっかりを見てしまったのである。初めの間は、私はただ厭なものだ、あさましいものだと思っていたけれども、だんだん恐ろしいようになり、次で、たまらなく可哀そうになって来た。彼等に対して一切《ひときれ》の薯は、どれほど勢力を持っているものか。若し私に出来ることなら、うんと厭になるほど御馳走を食べさせて遣《や》りたいというような心持も起ったけれども、とうとう、私はどうしてもあの子供等と近づきになって見ようという激しい好奇心に、すっかり打ち負かされてしまった。
 私は、さっさと独りで入って行こうともしたが、何だかばつが悪い。
 向うがいくら子供達でも、何だか極りが悪い。で、私は誰か来て私を連れてってくれればと思いながらぼんやりと立っていた。裏口からは、子供等が口の中で薯をころがしたり、互の椀の中を覗き合ったりしているのがすっかり見える。
 ちょうど好い塩梅に、そのとき甚助の身内の者で、家が傍だもんで、日に一度ずつ子供ばかりで留守居をしている所を見廻っている婆が、いつものように手拭地のチャンチャン一枚で向うから来た。
 私は早速婆にたのんだ。そして、初めて甚助の家へ入って見たのである。そこいら中は思ったより穢く臭かった。
 私が戸口の所に立って、内の様子を眺めていると、婆は、けげんな顔をして、ジロジロ私の方ばかり見ている子供達に、元気の好い声で種々《いろいろ》世話を焼いてやっている。
「ちゃんは今日も野良さ行ったんけ? おとなしく留守をしてろよ。また鉄砲玉(駄菓子)買ってくれっかんな」
 そして黙り返ったまま、婆が何と云おうが返事をしようともしない子供達に、何か云わせようとしきりに骨を折っても、頑固な彼等はただ、臆面のない凝視をつづけているばかりで一言も口をあこうともしない。皆が、憎いような眼をして私ばかり見ているので、だんだん私は来ちゃあ悪かったのかしらんというような心持になって来た。
 婆は、しきりに気の毒がってかれこれとりなしに掛《かか》っても、子供等は一向そんなことには頓着なく婆がいわゆる、「しょうし(恥し)がっていますんだ」という沈黙を続けている。
 私には、なぜ子供等がこんなに黙り返っているのかいっこう訳が分らな
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