る筈だから、どうぞよろしく」
 半ばふざけてのように軽くお辞儀をした。
「多分九時頃来ますからね、心配はいらないの、寝させてさえやればいいんだから――」
 ミサ子にはその娘がどんな仕事をしている人か略《ほぼ》見当がつくように思われた。
「私の友達ということでいいんでしょう?」
「結構だわ、じゃどうぞ」
 どこか落つかない気持で待っていると、約束の時間より早めに、銘仙ずくめのおとなしい装の若い女がミサ子を訪ねてやって来た。
 電燈の下で向いあったが、ミサ子にもその女にも、別に話すことがない。顔を見合わせ、何ということなく微笑みあった。沢田というその女は、やがて淡白な口調で、
「あしたあなたお早いんですか」と訊いた。
「私、勤めているんです。七時に起きりゃいいんだけれど、あなたは?」
「六時前に出かけたいから……そろそろやすみましょうか」
「布団がなくてわるいわね」
「私こそ、いきなり御厄介になってすみません」
 沢田はミサ子を手伝って布団をしくと、行儀よく、だがちっとも遠慮せず帯をといて寝仕度をした。
 ミサ子の仕度を待って、
「あなた、どっち側がいいでしょう」ときいた。
「どっちだって
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