れまでにしろ、小説で読んだり、新聞で読んだりして、種々の経営の中に強い、闘争的な左翼の組合のあることは知っていた。だが、柳から渡された全協一般使用人組合のニュースは、ミサ子に、漠然と頭で考えていたのとはまるで違う感動を与えた。組織は思いもかけないところまでひろがっている。〔三字伏字〕の内部からさえニュースが出ている。――
宏大なビルディングの聳え立つ丸の内一帯の風景が、からくり[#「からくり」に傍点]をわって、現実の底から初めてミサ子の前に立ち現れた。最後には必ず大衆によって征服されるべきものとしてそれは示されているのだ。
ミサ子もこの頃は、現在の社会で多くの者を不幸にしているのが一人二人の人間の力、まして××○○会社の穴銭沖本だなどとは思っていなかった。この資本主義の世の中そのものが組立て直されなければならない。だからこそ、××○○会社の内でもミサ子は知らず知らず女事務員たちの間にあって、柳などの助手のような立場に立ち、みんなの不平をあつめたり、一致した行動へみんなを召集したりする仕事に加わるようになったのであった。
柳が恐らく分会員であろうということは、ミサ子をちっとも驚かせ
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