もしたら、さぞ愉快だと思うんだけれど……」
「――ほんとに!……」
 ミサ子は、微かに顔を赧《あか》らめながら、
「私、生意気みたいだけど、実はそんなようなことも考えてはいたのよ、こないだっから。……私達、全く会社の中では切り離されていて仕様がないから、せめてそんなことででも集まれたらどんなにいいでしょう」
 柳は考えぶかい黒眼が一層黒く輝くような表情で、
「はる子さんのお金集めはいつ頃すむかしら」
と独言《ひとりごと》のように云った。
「さあ……もう一週間ぐらいのうちにはすむわね」
「沖本の穴銭がぶつぶつ云い始めたらしいのよ、少しぐらいまわり切らなくても、崩されないうちにそっちは一応切りあげて、これを手がかりに演劇サークルみたいなものをこしらえたらどうかと思うんだけど」
「いいわ! 会社であれだけにみんなの気が揃ったことってはじめてなんだから、これっきりにするのは何だか本当に惜しいわ」
 柳が坂田に向って、
「××○○会社の女事務員はお上品だから、どんなに食堂がひどくても、食べ物のことから騒ぐなんてことは出来ないんですよ」
と鷹揚に笑った。坂田は、
「ふむ」と云ったぎり、別に皮肉な顔
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