ストライキも出来ないじゃないの、みっともなくて……」
ぬるい茶番をのみかけていたミサ子がそれを置いて熱っぽい調子で云った。
「私達がそういう心持をすてない限り、むこうじゃそれを利用してつけ込んで来ると思うわ」
「――そりゃ確にそうね、――でも……」
しづ子、依田そういう割合元気な連中もこれに対しては黙りこんでいる。――
そのまんま「モーリ」を出て、みんなはぶらぶら東京駅の方へ歩いて行った。
デパートの送迎自動車だまりの広場で白いテントが陽に光って、人の列が見えている。黄色い葉をのこした細い銀杏の若樹のまわりや、暖められたガソリンの軽い都会らしい匂いの中を絶間ない自動車の往来を縫ってはあっちこっちのビルディングから出て来た連中が素頭で散歩している。
この大勢の、大して愉快な希望もなさそうにして歩いている殆どみんなが月賦の洋服を着、女房子供をかかえて去年から賞与も半減かまるで無しかで日々同じように働かされているのだと思うと、ミサ子は心の底でおっかないように感じた。
実際丸の内の気分も、この二三年に変った。ミサ子が女学校時分ここを通る毎に感じたような、自信ありげな、燦々光るような
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