ない方だった。こんなきっぱりしたことを云うとは考えていなかったのだ。
柳はミサ子の顔をのぞき込むようにして、
「あなたも賛成?」
ときいた。
「私もいいと思うわ」
「はる子さんが、その後どんな様子か……今日とてもみんな本気になってたわね、あの調子をくずさないようにしなくちゃ駄目ね。退社とわかったら、すぐやりましょうよ、ね。お金をあつめる責任者を誰か三四人きめて……ね」
「ミサ子さん、ひと肌おぬぎなさいよ」
とれい子が笑った。
「あら……私なんか」
「御謙遜はいりません。……男の社員からだって、あつめられるだけあつめましょうよ。はる子さんは新米の社員が書式を間違えた原稿をよこしたって、ちゃんと直して打ってやるぐらいだったんだもの、まさか知らん顔しやしないわ」
有楽町で別れるとき柳はミサ子に、
「じゃいいわね、あのこと忘れないでいて下さいね」
と念を押した。
落付いているのと、技術がいいのと、どこか人をひきつけるところがあるのとで、ミサ子は××○○会社へ入った間もなくから、柳と親しくなった。
どっちかと云えば人目をひき易い美しい顔だちだが、柳は大して身装を飾らなかった。大抵白絹のブ
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