まっているいろいろのわけがハッキリしたように思えた。
 ××○○会社には女事務員でも、支店からまわって来たりしてかれこれ七八年勤めている人が一人二人いた。この不景気でもクビきりをやたらされないという安心が、ひとつは××○○会社の女事務員たちを引込思案にさせている原因だ。

        七

 その日は朝っからまるでいそがしかった。やっと暇をみてミサ子が洗面所へ行こうとすると、むこうから靴音を立てて庶務の沖本がセカセカ小使とやって来た。
「どうしたんだね、佐田君がぶったおれたっていうじゃないか」
「アラ!」
 ミサ子はびっくりした。
「ほんとですか」
「仕様がないよ。だから御婦人は……」
 小走りにミサ子が沖本と洗面所へ行って見ると、ほんとだ。白いタイル張の床へじかに事務服を着たまんまの佐田はる子が倒れて、掃除掛の手拭を姉さんかぶりにした小母さんが、ヤッと七三に結ったはる子の頭だけ黒綿繻子の仕事着をきた自分の膝へ支えている。
「あら、あら、心配だワ、ちょいと! はる子さん! さ、のんで! これを飲んで!」
 きたないのをわすれ、自分も床へ膝をついた岡本しづ子が真蒼になってコップについ
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