×商事の奴が、若し本心から怒ってミサ子にくってかかりでもしたのなら後がもっとさっぱりしただろう。××商事の奴のしん[#「しん」に傍点]はガラン洞の気持だったのだ。それは、受付でミサ子が自分の名を紙に書いてた間、ぼーっと往来を眺めていた男の顔付でわかる。
あいつは、自分のものでない何かの威を借り、高飛車に出たのだ。だからミサ子が他の会社のものだと分ったときのみっともない、卑屈なあわてざまときたら、どうだ。全く「ざま見ろ!」だ。
然し、ミサ子の苦々しい発見は、そこからも深まった。あんなケチな奴にさえ権力のようなものが与えられている限り、現に順子はたまげてしまって、きくべき口さえ碌にきけなかったではないか。
今までミサ子はみんな、ほかの女事務員と同じように守衛などというものは謂わば自分達のためにもなる番人ぐらいに考えていた。それも違っていた。ときによれば守衛までハッキリむこうに廻るのだ。そのために雇われているのだ。
考えているうちに、ミサ子は切ない緊張した心持になって来た。頭の中で、何かカラクリがじりじりと一まわりしかけている。これまでうっかり見そこなっていた自分たち女事務員、勤人の
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