舗道
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)金《きん》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)十|束《ぱ》一からげだった。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)とうとうくび[#「くび」に傍点]になった。
−−
一
あっちこっちで帰り支度がはじまった。ビルディング内の生暖かい重い空気が急にしまりなくなって、セカセカかき立てられた。
ミサ子は紫っぽい事務服を着てタイプライタアをうっている。かわり番こにワイシャツにチョッキ姿の社員が手洗いに出たり入ったりした。大声で、
「ああ、ありゃダメさ!」
廊下の誰かと話しながら肩でドアを押して入って来る者もある。
ミサ子は、その中でわき目もふらずタイプライタアを打ちつづけた。もう一枚、短い手紙がある。それさえ打ちあげれば、一日の仕事はすむわけだ。
男の社員たちは、机の前にくいついている仲間に、
「おい、まだかい?」
と声をかけた。自分は洗って来た手を拭きながら肩越しにのぞき込んだりしている。
しかし、ミサ子に、まだかい? ときく者もい
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