、竹すだれのかげからモーターをうならしていたうすぐらい町工場の窓がひっそり閑としてからは、便乗はますます普通のものには手のとどきかねるところで廻わされてゆくからくりとなって来た。
 戦争という事業は、戦場で、最新式の武器で、兵士という名でそこへ送り出されたそれぞれの国の人民たちに殺し合いをさせるばかりか、軍需生産という巨大な歯車に小経営者の破産をひっかけ、勤労者をしぼり上げ、女子供から年よりの余生までを狩りたてて、独占資本という太い利潤のうけ口へ、血の中からすくい上げた富をさらいこむのであった。
 この地獄の絵図を、わたしたち日本の全人民が自分の生活で味わった。そして、戦争がすんで三年目のきょうの日本では、例年の二倍もはげしい雷雨でびしゃびしゃな駅の構内に、つめかけた群集で徹夜のさわぎをしている。汽車の切符は二倍半にあがる。タバコがあがる。公定価格のすべてがあがる。物価の一一〇倍にたいして、労働賃銀六〇倍のあがりでは誰の暮しも追いつきかね、タケノコ生活はタマネギとなって、もうしん[#「しん」に傍点]まではいでしまった有様でいる。
 闇という真暗なことばが子供の口からさえ洩れるようになっ
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