す。そのて[#「て」に傍点]がつかわれている。いま日本のすべての男女にとって一番いやなのは戦争の不安である。したがって戦争の危険を濃くするのが共産主義者であるというまるでさかさな観念を根気よくふきこんでゆけば、戦争なんかたまるか、と思っている民衆は、だんだん共産主義者のいう事実を疑うようになり、ついには耳を傾けないようになるだろう。そうなれば、戦争挑発はまるでたやすいことである。昔アフリカに奴隷の市場と買われた奴隷をつみ出す港があった。そこから奴隷船が通っていた。そのように、日本という小さい貧しい島が、軍夫の島とさせられる可能がないとは云えない。――わたしたちがくれぐれも忘れてならないことは、そのアフリカの奴隷市、奴隷港でも、黒人奴隷売買の親方は同じ黒人の酋長や金持であったという事実である。
日本人民の運命には重大な危険がかくされている。それを念頭において今日の政治を観察し、ポツダム宣言に誓われた日本の民主化が巧妙に内外のファシズム勢力の増殖にすりかえられてゆく過程を注視すると、便乗というものの最悪の典型がそこに発見される。日本の小規模な独占資本は、より強大な国外の独占資本の利益追
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