がら、高く低くと風むきを利用しながら戦争挑発の凧糸をあやつっているともいえる。
 この恐怖の凧が、日本の空にも見えるようになりはじめてから、わたしたちの周囲には注目すべきさまざまの便乗現象がおこって来た。
 この次の機会にこそ、日本は漁夫の利をしめるか、さもなければ大漁祝いのわけ前にありついて、前回でものにしそこねた北や南での領土的野心をみたすことができるという潜行的な宣伝が行われている。あれこれと形をかえて、民間にはいりこんでいるもとの職業軍人や憲兵、ファシストのある種の人々は、ぐるりの青年たちにそういう教育をしみこませている。世界の様子もしらず、軍事教育で育てられて来た青年は汽車の中でそういう話もあり得ることのように喋っている。
 かくれたファシズムの力が、日本の安定をぐらつかせようとしていることは、こういう場合ばかりではない。平和をみだそうとしているものは、共産主義者その他の進歩的分子であるといういいかたさえあらわれた。満州事変以来、日本の侵略戦争に反対し、戦争によって人民の生活を悲惨にすることを拒絶しつづけて来たのが赤であったことは、憲兵や検事局がよく知っている。あいつは赤だ、
前へ 次へ
全21ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング