んにち、こういう経験の深い人達はひとつも表に立って働く必要はありません。組織が残っておりますから。その組織はもとのままの特高課とか、憲兵とかいう世界の民主主義からはっきり誰でも非難を向けられるようなものよりも、もっと微妙に、もっと拡がって様々の形をかえたそういうものです。そういうものが今日残っております。たとえばA級の戦争犯罪者、つまり世界の人類に向って罪を犯した人が数人処刑されたとしても、ファシズムが残り、底が残っていればそれはなんの意味もありません。蔭でよく働く人が自由に活動できれば、そういう人達は日本の民主化を邪魔する仕事がいくらでも出来る。そして彼らはそれをはっきり知っています。自分たちがまだ利用される余地があったということを、したがって、自分たちとして利用する力もある、ということを。これは、私どもの明日の発展的な運命に対立した立場であり、その立場についてのはっきりした自覚でもあるでしょう。ファシズム、日本の旧軍部の力が生きている実感が与えられていないならば、どうして東條の家族が「お父さんは生きている」というふうなおそろしいことをいえるでしょう。この言葉は極東裁判の、長い間の調
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