、合理的な平和を愛するすべての人の心を踏みにじってしまったのは治安維持法の仕事でその実行者である検事局、憲兵のために働いた安倍源基を筆頭とするその部下です。ですから安倍源基の出世物語というものは一頁ごとに人民の血に赤く塗られています。治安維持法のギセイ数万人、共産党の内に入りこませたスパイ組織の功績によって彼は勲章を貰い、企画院総裁になったのです。そういう人が果して、人道的に、道義的に云って無罪でしょうか。私たちがあの人たちをここに立たせて、おじぎをすることが出来るでしょうか。裁判では、法律的な範囲内では無罪として釈放されました。皆さんは公務員法を御承知です。それからいろいろの新聞の記事の扱いにあま下りもあって決して自由でないことも知っていらっしゃる。出版が自由でないことも知っていらっしゃいます。そういう時に、選挙を前にして、私どもが既成政党の政治の腐敗を心から嫌って、新しい人生を明日につくりたいと思っている時に、こういう人民抑圧によって出世した人物、スパイ陣の組織者、治安維持法の残酷な使用法を実行した人が無罪として現れてきたこの意味はどこにあるでしょうか。それは明瞭だと思うのです。こ
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