う。書くということは社会的な行動です。書く時に私どもはなんのテーマもなく書くでしょうか。まず第一に自分たちの書きたいと思うテーマをしっかりとらえようとします。われわれの頭のなかにはいろいろの問題があって、くれにさしかかっている今は今年の正月は餅が何枚つけるか、蜜柑が買えるか、ボーナスがいくら貰えるだろうか、貰ったらどう使うか、また靴の新しいのを買わなければならない、いまはいている靴は底がぬけたとかいろいろな考えが頭にあります。そのなかで靴の底が抜けたから新しい靴を買わなければならないというテーマについて書きたいと思うときは、ほかのことは一応整理して、どけなければならない。それから、第二段のこととして私どもがものを書こうとする場合には、自分の未熟さにも抵抗して、全力的にそれとたたかってゆかなきゃならない。表現のむずかしさ、読む人に書こうとしていることがよくわかるように書いてゆくためには、自分のあらゆる貧弱さにも抵抗しなければならない。働く人は時間の少いという条件ともたたかっているのです。そういうさまざまの抵抗とたたかいながらなお且つ新しい文学が生まれようとしているという希望、何かいわずに
前へ 次へ
全32ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング