たといわれている志賀直哉を、松本治一郎と対比してみるとどうでしょう。あんなに自我というものをたいへん潔癖に守ったような人が結構、横這いをしているのです。天皇も人間になったのだから、そして生物学者ということを押し出しているのだから、文化的な雰囲気をもたせなければならないというわけでしょう。この頃は芸術院(これは各専門分野から養老院という辛辣な別名を与えられていますが)の会員と会食したり、安倍能成、志賀直哉そのほかを招いて天皇の前で文化・文学座談会というようなものをやるのだそうです。けれども、その話しかたが横ばいなんだそうです。普通にあいたいで話すんじゃなくて――天皇がみんなから別のところにいて、その下に安倍さんや何か固まって話してね、お互い同士は友達ですから、こういうことはどうなんだろうね、たとえば天皇はこういうときどういう言葉を使われるのだろうね、というようなことをお互いの間でいうと、侍従か何かがそこにいて、天皇に適宜にとりつぎ、またその答えは側のものが答えるんだそうです。だからこれは松本さんが厭だといった「横這い」の会話でしょう。それは天皇という人は、奥さんに額の汗を拭いてもらってほ
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