、せまい国土をもった日本は外へひろがらなければならないと教えられた。そして小さい日本が大国と戦争して勝ち、つよくて金のある列強と対等のつき合いをし、応分の植民地分割にあずかるということに国内の現実からは消えた、四民平等の夢をつないだのであった。
事実、戦争がはじめられたとき、日本の人民は、はじめて権力にとって無視されないものとなった。アジアにおける資本主義国として、西欧資本主義の利益探求の方向に同調し、その範囲で日本の資本主義を強化してゆくために、兵としての人民は重要な軍需消耗品である。自身の繁殖力によって消耗を自動的にカバーしてゆく消耗品である。日ごろは人民のつつましい日暮しに触れるところのない天皇をはじめとする雲上人、大臣、大将、代議士たちなどが、戦争となると、いつも離れて生活しているだけに、一層効果的な好奇心・感動をもって人民にこまごまとふれはじめた。「一匹の軍馬よりもやすい兵卒の命」は雀躍して皇国に殉じることを名誉と感じて疑わないように。妻子父母は、国のために、不幸を名誉としてよろこばなければならない。宮様と同じ隊であった息子が、前線で戦死したことを息子の余栄として、皇后の巻
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