、存続の保証を得ようとしている。日本のすべての心に戦争の恐怖があり、ファシズムの専横と独裁への嫌悪がある。国際事情にふれる機会が少ない上、まだイエスとノーをはっきり区別して社会的発言をする習慣がゆきわたってしまわないうちに、この戦争とファシズム独裁に対する人民の嫌悪感を逆に利用して、真の戦争反対者、民族の自主生活を希望するものの上にその名を冠らせ、人民の中から真面目に戦争挑発に反対する要素をとりのぞこうとする方策は、ファシストとして愚策とは考えられていないだろう。ファシストは自分と同じ民族に属する人民の社会的判断力をいつも過少評価するのが特徴の一つである。自身の潰滅だけが彼等に理解される失敗のすべてである。
わたしたちはポツダム宣言をもう一度、もう二度三度とくりかえしてよんで見る必要がある。そこに日本の自立と人民の民主生活がどう語られているかを会得する必要がある。
世界にはアメリカ・ソヴェトをふくむ五十数ヵ国の婦人があつまって組織した世界民主婦人連盟がある。八〇〇一万余の世界の婦人が、それぞれの国の民主化と世界平和とのために活動している。最近の定期大会では、世界平和の確保のために一層具体的な活動をすることと、児童のための活動が決定され、秋ごろにアジアの植民地、隷属国における婦人の大会が持たれることにきまった。
第二次大戦の歴史のなかで、日本の婦人の立場は、日本婦人自身にとってほんとにくやしく切ないものであった。国内で、妻とし母とし姉として侵略戦争に反対できなかったばかりか、日々に日本の女をやせさせ黒ませる辛酸が、その本質は非人道なファシズム戦争であるということを知りさえもしないで、重荷に堪えさせられた。その重荷が、きょうの現実でどう減ったというのだろう。
六十万以上の未亡人をふくむ日本の婦人こそ、平和確保に対して最もつよい発言権がある。職業の不安とともに結婚の可能をも失った多くの若い女性、経済不安定のために学業をつづけられないすべての女学生たちこそ平和の要求者である。そしてわたしたちは苦痛によっていくらか賢くされた女性として、次のことを理解したいと思う。戦争は人間の起すものである。人間によってやめることができるものであるし、また人間によってやめさせられなければならないものであるという事を。同時にまたすべての愛の行為とひとしく、平和も、戦争挑発に対する実際的で
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