感は書かれていなかった。いずれも、時代の急転を切迫して肌に感じ、作家も今までのようにしている時代ではない、という感じにつき動かされ、その動きを今日にあって最も一般的な形である団体のくみたての方向に結びつけて行った過程であると思える。
日本の社会生活の変化は、実にどんな人の身にも及ぼしていて、現在の日本に生きている者は只の一人もこの空気の外に存在していることは出来ない。日本が世界史的な変転の時期にさらされている現実は、極めてリアルに私たちの日常に映っていて、感情と心理の翳とは複雑である。
このような現実を土台として、文学が変化するのは当然であり、一人一人の作家の内部に立ち入ってみても、それぞれの心は、決して去年の心のままではないのだと思う。「炭」という一字は、かつて大多数の文学者にとって何事でもなかったにちがいない。どんな反応もその精神に目ざませなかったと思う。ところが、この初冬、「炭」ときいて何かの生活的感覚に刺戟をうけない作家が唯一人でも日本に在るだろうか。
文学が変化してゆく現実の底には、このような社会的な生活の感覚の推移、変化がその根本の動力となってゆく。文学の題材としてす
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