文芸時評
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鬱金《うこん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二人|連弾《つれびき》で語っているところに、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+墨」、第3水準1−87−25]東綺譚
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        八月の稲妻

 読みたいと思う雑誌が手元にないので、それを買いがてら下町へ出た。町角と云わず、ふだんは似顔描きが佇んでいるようなところにまで女や男のひとたちが、鬱金《うこん》の布に朱でマルを印したものと赤糸とをもって立っていて女の通行人を見ると千人針をたのんでいる。出会い頭に、ああすみませんがと白縮のシャツの中僧さんにたのまれたりして、小一時間歩く間に私は四五度針をもった。私は何か一口に云いきれない苦しい心持で光る針に三遍赤糸をからめては小さいコブをこしらえて、お辞儀をしてかえした。外科的な専門の立場で云うと、千人針を体につけていて弾丸に当ると、弾丸の方は比較的たやすく抜き
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