十四日には日本プロレタリア作家同盟第三回全国大会が、築地小劇場で行われた。
ちょうど、赤字穴埋め策として立てた政府の官吏減俸案に反対し全国的官吏の未曾有の示威が行われている最中である。
「文戦」の分裂があってから十数日だ。
日本の社会一般は歴史的意味を帯びた情勢だった。しかも、この第三回大会は自身独特の歴史的使命をもっていた。
ほかでもない。
間接には、「文戦」内左翼作家の発展的前進、「文戦」からの分離の動因ともなったハリコフ会議、一九三〇年十一月に、ウクライナ共和国首府ハリコフで行われた国際革命[#「革命」に×傍点、伏字を起こした文字]文学書記局第二回世界大会の日本のプロレタリア文学運動に関する決議が、この大会で一九三一年度の「ナップ」活動方針に具体的に討議されるはずだった。
日本プロレタリア芸術運動が、国際組織に加盟するために必要な、いろいろな問題が大衆討議されるべき、画史的意味があったのだ。
いよいよ五月二十四日になった。
日曜日だ。
「全線」「吼えろ、支那!」などが演ぜられプロレタリア大衆の熱烈な支持をうけた小劇場の舞台が、今日の日本プロレタリア作家同盟第三回全国大会の大事な演壇である。
飾りっけない後の灰色の壁に、赤い「ナップ」旗が張られている。
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│日本プロレタリア作家同盟第三回全国大会万歳!│
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赤いプラカートだ。
右手の粗末な数列の床几に、ドタ靴の委員たちがゾロリとかけ、新しい木や古い木をブッつけた台の上へ議長がのっている。
┌────────────────────┐
│文学運動の基礎を全国の工場へ! 農村へ!│
└────────────────────┘
大書した、一九三一年の「ナップ」指導的スローガンがみんなの頭の上からさがっている。
六十五人の同盟員と三百人近い傍聴者とは、ギッシリ観客席を埋め、手に手に二十八頁の議事録をひろげている。
徳永直が、例の二つの黒い鼻の穴で階級を嗅ぎ分けるというような恰好で、熱心に委員橋本英吉の報告をきいている。「肩を聳した」小林多喜二がいる。煙草にむせて苦しそうに背中を丸めて咳きながら、黒島伝治が議事録に何か細かく書きこんでいる。男の子を膝の上に抱いて、その子の頬っぺ
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