回体験したとき、白熱した想像が描き出してくれた通りに、飛行準備の有様を細大洩さず描写した。更に彼は、そういう自然力と科学の力との間にある可能を現実とするために決定的な大きい作用をもたらす人間の種類をも計画し、二組の探検隊を想定して、一方はベスファミーリヌイという訓練の出来た、控え目な、自信から発する落つきのある男、一方は甚しく熱し易い、レコード樹立に懸命なタイプのブリノフという男と、それぞれに指導させてみる。後者は、極地着陸のトップを切ろうと焦って、機体の検査をしなかったので、遭難してしまう。「俺はブリノフでなく、ベスファミーリヌイにならなくちゃならない」そう思いながらヴォドピヤーノフは、書きつづけて、北極征服の空想小説「操縦士の空想」をかき上げた。彼はそれをシュミット博士のところへもって行って、こう云った。「この原稿をよんで見て下さい。これが本質的に、北極探検の飛行方面の予定案です。官僚的な文書なんか私にはかけません」
それから一ヵ月経った或る日、彼はシュミット博士からよばれた。そして、ヴォドピヤーノフのすべての案が政府に承認されたことを伝えられる。そのときシュミット博士は「君の原
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