すものとなっている要因を、その社会的根源にまで遡って見ると、私は、歴史的にはそれが「白夜」や「友情」その他の作家たちを今日あらしめているものと同期的な線の上から発していると思わざるを得ない。その点で、作者のたゆみない鞭撻と努力とが生活の全面においてなされることを、よろこびをもって期待するのである。
 もし私に煙草がふかせたら、きっとここいらで一服火をつけ、さておもむろににやにやしたであろうような情感が、今私の心のうちを去来している。それは、この「風雲」の作者はこれまで多くの評論をかいて来ているから、この一篇の小説の遭遇するであろうめぐり合わせは、いわばこの作品一つのボリュームに適当した以上に、錯雑したものであろうという感想である。いささか身にも覚えのあることとして、私はその感想を禁じ得ず、にやりともするのであるが、しかし、作者は自ら「風雲」に向って額を挙げて立っているのであるから、私は、そういうことについても、風よ吹け、吹いて古い小枝を払いおとせ、と眺め得るのである。[#地付き]〔一九三四年十二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年12月
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