の志したところを理解するにつれ、それがプロレタリア文学として成功したか失敗しているかは後にふれるとして、ともかく、これまで階級人の獄中生活を描いたいくつかの作品に比べて見ると、その方向においてある意味で歴史の新たな段階を反映していると感じた。
作者は、竹造という人物を登場させて来ることによって、今日の大衆化された階級対立の社会生活の現実にあっては、獄中生活を余儀なくされるのが、決して、昔卑俗に鋳型からぬかれてわれわれに示されていたような鉄の英雄[#「鉄の英雄」に傍点]ばかりではなく、全く竹造のような、どちらかといえば気質が弱い面を持った人間にとっても、ある場合避け難いめぐり合わせであり、しかも、そのような社会的日常の必然によって、階級人として重大な発展のモメントも「癩」「盲目」などのような特異性は附随していない、獄内の日常些事の中にさえ掴みゆくものであることを、語ろうとしていると思う。
「風雲」において、作者は、従来階級人の獄中生活を描いた作品が、多かれ少なかれ、からみつかれていたロマンティシズムを払いのけて、今日の拡大されている階級的対立の現実から、きわめて地道に階級的普通人という
前へ
次へ
全12ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング