ものだろうと思われる。更に日本の文学が文芸思潮というものを喪ったまま動いて来ているこの数年来の実情に沈潜して思いを致せば、今日文学に地方分散の傾向の見えはじめたことの内に含まれている要素が、どんなに錯雑した過程に立つものであるかも深く考えられるわけである。中村氏によって文学中央集権の崩壊と云われている現象は、文学のこととして云えばつまりは一貫した影響をもつ文芸思潮の崩壊を意味するであろう。そして今日では、都会での米、味噌、水にかかわることとして見られる部分があると云っても、あながち文学と全く無縁なものと笑殺され切らぬところも現実の相貌のこわい面白さだと思う。
[#地付き]〔一九四〇年七月〕



底本:「宮本百合子全集 第十二巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年4月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
親本:「宮本百合子全集 第七巻」河出書房
   1951(昭和26)年7月発行
初出:「文芸」
   1940(昭和15)年7月号
入力:柴田卓治
校正:松永正敏
2003年2月13日作成
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