もつ美しく立派な文学の一つでもが、何かの意味で無情な破壊力の抗議であり、人間の訴えと欲求に立っていないものがあっただろうか。
 世界文学の中に日本の現代文学がどういう価値をもつかということは、決して「細雪」をもっていることだけでは計られない。新しい歴史がひらけたアジアで、独特な辛苦の立場におかれている島国・日本の人民が、どのように自身を世界平和かくらんのために使役されることからまもり、自身と世界の良心のために、これまでだまっていたつましい人民が、どんなにいろいろさまざまの現実について発言しようとしているというところに、これからの日本の人民の文学の評価のよりどころがある。そのような文学の細目が、しだいに日本の文学史を変革してゆくであろう。[#地付き]〔一九五〇年三月〕



底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年11月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
   1952(昭和27)年5月発行
初出:「入門文学講座 第三巻」新日本文学会
   1950(昭和25)年3月
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