じっていたひとが、
「やあ」
と、笑い出した。
「どうも――これは……」
 記者は、今更床几から立上るのも不自然で間誤付きながら、片脚をそろりと床几の下へかくすようにした。
「ほかの政党だと、幹部連のえばりかたがちがうから、どこにいたって入ってさえ行けば一目でわかるんですが、どうも共産党の人は……失礼しました」
 名刺を出して、頭を下げた。
 格別用談もなくてその記者が去り、やがて黒外套の見知らない人も出て行った。二人きりになったとき、重吉が、出ていたノートを書類鞄にしまいながら、
「ひろ子、来たついでに経歴書、出してゆくか」
と云った。
「経歴書って――」
 突然な気がして、ひろ子は躊躇した。経歴書を出すということは、正式に組織上の手続きをするという意味であろう。
「それは、わたしとしては当然なことだけれど……」
 ひろ子には、今、直ぐ、ここで、という用意がなかった。二つの仕事が両側から一時に迫って感じられた。文学の仕事と、ひろ子が女であるということから自然おこって来る婦人関係の仕事と。その頃、ひろ子には、あとの方の用事が多かった。書くものも、所謂啓蒙風のものばかりの結果になっていた
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