口真似をして云った。
「そうなのよ。だから、わたし、この封筒もお目にかける気になったの」
「わからないことがあるもんか――ちゃんとわかっていたじゃないか。――会費を送るのはやめたかい?」
「やめたわ。それは大抵の人がやめたでしょう」
もと文芸家協会として組織されていたものが、団体ぐるみ文学報国会というものになって、会員の一人だったひろ子も自然そこにひっくるめられていた。
またしばらく黙っていたのち、重吉がいかにも笑止千万という顔つきで、
「この小説、もしもさきでことわって来なかったら、ひろ子はのせていいと思ったのかい」
「のせたい、と思ったのじゃあないのよ。のせた方がいいだろう、そう思ったのね。あの時分……」
そのことが話したくて、ひろ子は、その封筒も重吉の前に持ち出したのであった。戦争が進み、情報局がすべての文化統制を行って、文学者やその作品をすっかり軍用に統一しはじめた頃、ひろ子たち一群の作家は、不安な状況に陥った。一九四一年の一月から、ひろ子ははっきり作品発表を禁止されて、それからは却って、立場も心もちもきっちり定った。生活万端いかにも苦しいけれども、自分は自分なり、と落付
前へ
次へ
全92ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング