それが、泣き膨《は》れたひろ子の精神の渾沌《こんとん》を一条の光となって射とおした。ひろ子は、重吉の手をとって、
「ね、云ってもいい?」
ときいた。
「いいさ」
「わたしが、あなたの気もちを傷けたのは本当にわるかったわ。どうか許して頂戴。――そしてね、あなたは、あんなに永い間牢屋に暮していらしたでしょう? あすこには、決して、あなたに対する絶対の支持というものは存在しなかったのよ。いつだって、二重の、いつでも逃げ腰の親切か、さもなければはぐらかししかなかったのよ。そうでしょう?」
「…………」
「絶対の支持、ということがわかる? その幅の中で、どんなに憎まれ口をきいたにしても、馬鹿をしたにしても、それでも、なお絶対の支持であるという、そういう絶対の支持がわかる?」
 ひろ子は泣き泣き云った。
「ひろ子の支持は、そういう絶対の支持だということがわかる?」
 永い間沈黙していた後、重吉は、はじめて顔を向けて、正面からひろ子を見た。ああ、やっと重吉にとってひろ子は再び見るに耐えるものになった。ひろ子は、両手の間に顔を挾んだ。
「ね、わかる?」
「――絶対の支持なら、どうしてあんなことを云うの
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