くと、そこには電車の中で重吉が不意に云い出した批評につながる自分の在ることが、ひろ子自身にもさとられるような気がするのであった。
「さっき電車の中でしかけた話ね、覚えていらっしゃる?」
 ひろ子が訊いた。
「後家のがんばり、かい?」
 二人が話しやめたその位置で、重吉は、はっきりと又その表現をとりあげた。
「わたしには、ね。どうしてああ急におっしゃったのか、きっかけが見つからないのよ。さっきから考えているけれど。……でも、きっとそういうところが出来ているんでしょうね」
 たとえば同じ夜の道を、こうして二人で歩いている。その歩きぶりも心持も、一人で出来るだけ早くといそいで歩いているときと、どんなにちがうことだろう。ひろ子はそれも一つの例として話した。
「自分でどこをどうがんばっているのかわからないところが、つまりくせものね」
「心配しなくてもいいんだ。ただ、これまでひろ子は、云わば一人ぼっちでがんばって来たんだから、どうしても、そういうところも出来たのさ。又それだからこそ、もったというようなところもあるんだし。――しかし、もう条件が変ったんだからね……そうだろう?」
「ほんとねえ」
 う
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