た。
「いかが?」
「案外だった」
「そんなによくなっていたの?」
「いい塩梅に病竈《びょうそう》がどれも小さかったんですね」
 吉岡が煙草に火をつけながら云った。
「大体みんなかたまっていますよ。この分なら、無理さえしなければ大丈夫と云えますね」
「石田に無理さえしなけりゃと、云うのが抑々《そもそも》無理らしいわ。――でも、よかったことねえ。ありがとう」
 ひろ子は、椅子の背にかかっていた上着をとって重吉にきいた。
「お着にならないの?」
「もう一遍行くんだ――そうでしょう?」
「肺尖のところが、どうもよく見えなかったんです、丁度鎖骨の下だもんだから。ついでに、見直しておいた方がいいでしょう。血管がそこでいくらか太くなっているから、先の方に全然何もないって筈はないんですがね」
 肺尖のところは、二度目にも骨に遮られてよく映らなかった。吉岡は、
「石田さんは、自分の体についちゃもう専門家なわけだから大丈夫でしょうが、何しろ、ちゃんと証人が立っているんですからね」
 肺尖部の血管のふくれが何を意味し、何を警告しているかを説明した。そして、
「まあ三月に一度は必ずしらべられるんですな」

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