吉岡さんなんかいる筈はないんだもの……。
そこからどの位時間が経ったのか、二度目にまた吉岡の顔が見えた。そのときは、もうあたりまえの大さになっていた。そして、
「どうです、吉岡ですよ。わかりますか」
そういう声もきこえた。眼の水晶体が熱と血液の毒素のためにむくんで、ひどく凸レンズになっていたために、そんなに吉岡の顔も小さく見えたのであった。
ひろ子は、死んだ自分が又生きられたことを、吉岡の骨折りときりはなして考えることが出来なかった。重吉はそのいきさつを知っていた。重吉の病気を吉岡に診せたがっているひろ子の気持も度々つたえられていた。
十月十四日に帰って来たとき、重吉は決して健康人の顔色でなかった。それでも、昼飯をたべると、すぐ迎えに来ていた友人たちと遠い郊外へ出かけた。そこでは、もう活動が準備されていた。夕方おそくなって、そして、又道を間違えてひどく迷って疲れて帰って来た重吉に、ひろ子は、
「健康診断しましょうよ、ね。健康診断をちゃんとしなければ絶対に駄目よ」
心痛に眉をよせて力説した。
「吉岡さんに診て貰いましょう。それからでなくちゃ、わたしたち、どう暮したらいいのか分ら
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