活と関係のある新しい動力の発源地をそこに感じ、そこの様子を知ろうとして、淋しいガード下から曲って丘をめぐるその一本道へ出た。そこを歩くひろ子は、あんまり行く先がはっきりしているのと、いそいそしている自分があらわなのとを、はにかんでいるのであった。
行手の木立の間に、それらしい新しい建物が見えるところへ来た。すると、左手の草むらのうしろから、
「ひろ子さん」
大きい声で呼ぶ女の声がした。ひろ子は、道の上に立ちどまって見まわした。
「ここです、お待ちしていたの、御弁当をたべながら――」
あわてて立つ拍子にとりまとめた紙包を、まだ胸の前にたくしこみながら、小さい男の子をつれた瀬川牧子が、高い草の間から歩いて出て来た。
「まあ。――どうして? まち伏せ?」
牧子は数年このかた埼玉の町に住んでいて、滅多に会うことも出来なかった。
「思いがけないところから現れたのねえ」
「よかったわ、うまくつかまえられて」
上機嫌で牧子は男の児に、
「純ちゃん、これがおまく[#「おまく」に傍点]のおばちゃんよ、覚えている?」
と云った。三つぐらいの純吉が遊びに来たとき、ひろ子はその子と小さい枕をぶつけ合って遊んだ。それが大変気に入って、おまく[#「おまく」に傍点]のおばちゃんという名をもらったのであった。
「きょう、こちらへいらっしゃるとお友達から又聞きいたしましてね。お家までとてもゆけないし、こっちなら電車が国分寺まで来るから、思い切って出て来たの、よかったわ、お会い出来て」
ほかに通る人のない道を、二人の女は五つの児の足幅にそって歩いて行った。
「元気らしいわね――」
ひろ子は、牧子にはその意味のわかる笑いかたで、
「牧子さんだって、もう元気だわ。ねえ」
と云った。
その初夏、空襲の間に会ったとき、牧子はやつれて不安な眼つきをしていた。埼玉でもその町は安全と云えず、食糧の事情もむずかしかった。牧子の不安は、そういう日常だのに、そこの会社づとめをしている瀬川泰二が、戦争も最後の段階にさしかかっていると云って、しきりに何か考え、牧子の知らない時間をよそで過して夜更けて帰るようになって来た。牧子は、
「もし又あんなことになったら、私たちの生活は今度こそどうなるのかしらと思って……」
野良日にやけて、雀斑《そばかす》が見えるようになった顔を沈痛にふせた。
「瀬川はそれでいいかもし
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