》も日本人の嚔と同じなんですね、矢張りクシュンてんですもの私おかしくってさ」
「いやな人! 何してる? 今」
「今に会社へ行くんですって、お友達がまだいるんです」
 その時、二階から、女中のはめをはずした大笑いと、いかにも西洋人の太い胴から溢れるらしいハハハハという哄笑が聞えた。二人はびっくりして上を仰いだ。
「仕様のない人だね、お源さんたら――」
 さを[#「さを」に傍点]は迷惑そうに舌打ちをした。
 百代は、威勢のいい足どりで茶の間に入って行った。
「ただ今」
 父親は見えず、母だけが長火鉢の前に坐っていた。
「西洋人、来たんだってね」
 いねは、落付かないような、不機嫌なような眼付で、女学校の制服を裾短く着ている娘をじろじろ見た。
「まあその洋服でも着かえたらどうだい」
 百代は、女中や自分ばかりでなく、母親まで――つまり家じゅうに何かふだんと異う空気の生じているのを感じた。彼女は、メリンスの派手な袷に着換え、振分けのお下髪《さげ》を胸の上に垂しながら、黙ってお八つをたべた。
 五時頃、ラオロが二人の日本人と外出してしまうと、茶の間の気分がやっと少し楽になったように百代は感じた。
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