鹿見ちまいますよ」
「ふーん、ありゃちっと粗忽だった。あんな騒ぎんなる迄主義者とは夢にも知らなかったんだから。――今度はよかろう、人もついて来たんだから」
長い脛をとんび足に両親の間に坐りこみ、父親が口を利けば父の方、母が口を利けば母親の方と、一心に話模様を聴いていた百代は、
「ね、ね」
と、のり出した。
「何て名なのよ、その西洋人」
「――ラ――何とか――、鈴木さん何て呼んでましたっけ?」
「ラオロか、ラーヨロか、何でもそこいらだ」
「そうそうラオロだよ、変な名だと思ったけどつい忘れちゃった」
「じゃあ、確にそうだわ、その人よ、あすこにも、確にラっていう字があったんですもの――本当に家へなんか来るの? かあさん、本当?」
「本当だって云えば」
いねは、軽く娘をあしらった。
「だって――、かあさん――何だか嘘みたいだわ私……」
「変な子だこと……何もそんな気を揉むにゃ及ばないじゃあないか――そりゃそうと宿題は? もういいのかい?」
百代は、一とびに机の前に戻った。彼女はとても、もう英語の単語を二十、発音記号に書きなおすというような仕事を丹念にはつづけていられなくなった。勉強するふ
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